2025中期経営計画に基づき、社内のDXを積極的に推進するNECは、「働き方のDX」、「基幹業務のDX」、「運用のDX」を前進させ、従業員の能力を最大限に引き出し新たな価値の創出と業務の効率化を推進している。その中で、デジタルを活用した従業員のエクスペリエンス向上への取り組みが果たす役割は非常に大きい。この取り組みを支える重要なプラットフォームのひとつとしてWalkMeを採用、SAP AribaおよびSalesforceに適用している。単なるモダナイゼーションやマニュアル作成だけでは改善されなかったエクスペリエンスを大きく向上させることに成功した。WalkMeガイドを導入した業務申請では差し戻し件数が70%減少。問い合わせ対応の負荷も大きく軽減されている。

操作パターンの理解が進まず申請後の差し戻しが頻発

グローバルに事業を手掛ける大手電機の日本電気株式会社(以下、NEC)は、企業パーパス「Orchestrating a brighter world:NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を想像し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。」の実現に向け、現在、2025中期経営計画を実行している。この中期経営計画においては、「コーポレートトランスフォーメーション(社内のDX)」「コアDX(お客様のDX)」「フラグシッププロジェクト(社会のDX)」を経営の中核に据え、社内のDXで生み出した価値をお客様へ提供し、そして社会へ貢献していくことを目指している。この起点となる「社内のDX」の推進にあたっては、従業員の持つ力を最大限に発揮し働きがいの向上を図る「働き方のDX」、業務プロセスを最適化しデータドリブン経営を推進する「基幹業務のDX」、IT運用の効率化・高度化を実現する「運用のDX」を3つの柱と、それぞれのDXに共通する、従業員のデジタル体験を高度化する「エクスペリエンス」、様々な社内データを一元化し有効活用する「DATAプラットフォーム」、全システムを効率化・高度化する「モダナイゼーション」の3つで変革を進め、積極的な価値創出を推進しているところだ。

NECがデジタル・アダプション・プラットフォームの導入検討に着手したのも、こうした戦略が背景にあってのことである。そこには、エクスペリエンス向上への取り組みを通じて従業員のデジタル体験を高度化し、業務の効率化や働きやすい環境を実現することで、従業員の能力を最大限に引き出す狙いがある。
「社内にある約1,000のシステムをモダナイズして使いやすくしていくにあたり、エクスペリエンスは非常に重要な要素です。しかし、さまざまなシステムを導入してDXを推進しても、単なるモダナイゼーションやマニュアル作成だけではエクスペリエンスは改善されません」と関氏は強調する。

日本電気株式会社 コーポレートIT・デジタル部門 経営システム統括部 上席プロフェッショナル 関 徳昭氏(右) 日本電気株式会社 コーポレートIT・デジタル部門 経営システム統括部 主任 浦口 雄大氏(左)

実際、2018年から2021年にかけて導入したSAP AribaとSalesforceの利用においては、数か月かけて作成したマニュアルが想定通りには活用が進まず、ユーザーからの問い合わせの減少につながらない現状があった。ユーザーにとって、無数にある業務操作パターンを正しく理解することは非常に難易度が高く、「必要な項目がチェックされていない」、「添付ファイルがない」、「ファイルを添付する場所が間違っている」など、申請処理後の差し戻しが多発していた。申請件数の約10%において問い合わせ対応が発生しており、差し戻し率は全体の20%以上にも及んでいたという。このように差し戻しが頻発する状況は、運用担当者にとっても現場のユーザーである従業員にとっても好ましくない状況だったと言える。

もちろん、使い勝手を良くするためにはシステムそのものに手を入れる方法もある。しかし、同社は「Fit to Standard」を基本方針としており、ましてや対象がSaaSとなるとますますカスタマイズは難しい。そこで、マニュアルレスかつトレーニングレスでのシステム利用を可能にすると共に、システムには手を入れず標準機能を活用しながらエクスペリエンスを高められる仕組みを探していた。

操作の一部を自動実行してユーザーの誤操作を防止

解決策となるツールについて、外部のレポート等を元に調査を進めた同社は、システムに手を加えることなく、ナビゲーション、ガイダンス、オートメーションなどの機能をノーコード・ローコードで実装できるWalkMeに着目。2ヵ月にわたるPoCを通じてWalkMeを評価した結果、導入を決定した。決め手になったポイントは3つある。1つ目は、必要な機能が豊富に揃っていること。2つ目は、NECの厳しいセキュリティ要件をクリアしていること。3つ目は、設計・構築に関する知見の活用やトラブル対応においてWalkMeのサポート体制が充実していることである。
「特に当社のセキュリティルールは非常に厳しく、クラウドサービスを利用する際は所定の審査をパスする必要があります。審査にあたり、セキュリティを統括する当社専任部隊への回答も速く、パートナーとしてのWalkMeへの信頼感を強めるきっかけになりましたね。」(関氏)

実装にあたっては、これまでの問い合わせ傾向からユーザーがつまずきやすいポイントを分析し、SAP AribaやSalesforceにおける適切な業務フローを設計。ユーザーにどう使ってほしいかを考えながら、WalkMeで効果的にナビゲートする方法を精査していった。
「構築作業は当社がメインで進めていきましたが、WalkMeには実際に作成したものをレビューしてもらい、ユーザーエクスペリエンスに関してプロの視点でアドバイスをいただいたほか、安定的運用に向けて技術面でも支援いただき非常に助かりました」と浦口氏。

同社は、ユーザーがマニュアルを読まなくてもシステム操作に迷うことがないよう、WalkMeでガイダンスを提供。具体的には、入力項目において指示や注意事項を吹き出し表示でガイドするだけでなく、マスク機能を使って指定箇所以外を操作できないようにするなどしてユーザーの誤操作を防止。また、ユーザー操作に応じて必要な項目に自動でチェックを入れたり、申請ボタンの上にWalkMeでボタンをかぶせて添付ファイルの有無をテクニカルにチェックしたりなど、操作の一部をWalkMeが自動で補助する仕組みも実現した。いずれも差し戻しが発生しにくい操作環境を目指したものだ。

問い合わせ件数が75%減少 入力時間が2割減った例も

システム改修では容易に実現できない機能をノーコード・ローコードで実装できるWalkMeについて、浦口氏は、「ユーザー目線できめ細かな設定が行えるので、思い通りに対象システム上に操作ガイダンスを構築できます。特にユーザー操作を補助する自動実行機能はWalkMeの重要なポイントですね」と評価する。
WalkMe導入の効果は数値にも明確に表れている。WalkMeガイドを導入した業務申請での導入前との比較では、問い合わせ件数は75%減少し問い合わせ対応の負荷が大きく軽減されただけでなく、ある申請業務では差し戻し件数が約70%も減少。Salesforceでは、入力時間が2割程度削減されたというデータもある。マニュアルに頼りながらの操作は迷いも多く、それだけ時間と労力を要していたことがわかる。

また、ユーザーアンケートを実施したところ、「吹き出しによるガイドや、入力ミスの自動チェック機能は非常に助かる」「設定ミスが減り、差し戻されることがなくなった」「システム操作に関して問い合わせをする必要がなくなった」といった嬉しい感想が届いた。中には、「システム運用を開始した当初からWalkMeがあれば良かった」という声もある。浦口氏も、「新しい従業員が着任しても、これならマニュアルレス、トレーニングレスで、感覚的に操作できそうです」と期待を寄せる。キャラバン隊を組み、全国各拠点を周りながら定着化支援を行っていたコロナ禍前と比較すると、大きな違いである。もちろん、数か月をかけてマニュアルを作成したり、アップデートしたりする手間も不要になっている。

業務プロセス分析に基づき必要なシステムに横展開

今回の実績とノウハウをベースとした今後の横展開の可能性について、関氏は、「1000以上あるシステムのすべてに対してWalkMeを実装していくつもりはありません。基本的にはWalkMeを実装して”ユーザーのつまずき”を解消することで、より効果が期待できるところに対して導入を進めていく予定です」と説明。さらにこう付け加える。
「業務プロセスの分析ツールを使って改善を進めていくことになると思います。システムのログデータを用いて業務上の課題が明らかになった場合はタスク分析を行い、操作性に問題があるとなればWalkMeによる解決を図ります。一方で、業務プロセスのパターンが多いことがボトルネックになっているような場合には、業務プロセスそのものの改善が必要になります。」

「社内のDX」への取り組みにおいて同社が注力するエクスペリエンスの向上は、WalkMeの登場により加速。社内DXが生み出す価値を更に拡大していくことになりそうだ。