中長期成長戦略の達成に向けた「NISSIN Business Transformation」の一環として財務DXに取り組む日清食品ホールディングスの財務経理部では、とりわけ担当者の負荷が高く現場への影響が大きい業務からテコ入れするにあたり、SAP ConcurとWalkMeを同時に導入。SAP Concurでは制御しきれないシステム操作をWalkMeにより補い、誰もがストレスなく業務プロセスを完遂できるような環境を目指している。その先に見据えるのは、現場にとっても財務経理部にとってもマニュアルレス、問い合わせレスの世界だ。

マニュアルが形骸化し問い合わせ対応の負荷が増大

世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」や、世界初のカップ麺「カップヌードル」など、革新的な商品を世に送り出し続ける日清食品ホールディングス株式会社(以下、日清食品)は、他社の追随を許さない技術革新力と商品開発力、およびマーケティング力を通じて、新しい食文化を創造し続けている。誕生から50年が過ぎ、カップヌードルの全世界での累計販売数が500億食を超える一方で、新しい「おいしい」のカタチをハングリーに追求する同社は、2022年5月に最新のフードテクノロジーを駆使した商品「完全メシ」を発売。ビタミンやミネラル、必須脂肪酸などの33種類の栄養素とおいしさのバランスを実現したことで話題となり、累計出荷1,000万食※を突破する大ヒットとなっている。
※発売後1年(2022年5月~2023年4月)

そんな同社は、中長期成長戦略の達成に向けて、ビジネスモデル変革と生産性向上を両軸とする「NISSIN Business Transformation」を掲げ、デジタル時代における事業構造改革に取り組んでいる。その具体的な取り組みの一つに、「生産性の高い働き方改革」「ガバナンス・経営基盤強化」「社員の意識改革・組織風土改革」を目的とした財務経理業務領域のDX(財務DX)がある。コロナ禍で顕在化した「紙の請求書」問題がDXを大きく推進するきっかけとなり、財務経理部の中でもとりわけ業務負荷が高く、かつ現場部門にも影響の大きい「請求書支払」「経費精算」に関わる業務からテコ入れが始まった。

日清食品ホールディングス株式会社 財務経理部 係長 矢島 勇樹氏(右) 日清食品ホールディングス株式会社 財務経理部 兼 情報企画部 デジタル化推進室 土居 千登世氏(左)

この業務に関与する従業員は工場勤務を除くグループ会社の約3,000名だ。請求処理や経費精算に伴う紙の処理・保管は年間30万枚にも及んでおり、業務に要する時間は全体で年間70,000時間を超えていたという。紙でのやりとりが効率化を阻む要因であったことは間違いないが、複雑で使いにくいシステムが従業員の負荷をより一層高めていたのも事実である。実際、マニュアルはあっても使い方に関する問い合わせが減ることはなく、財務経理部では月間約200件もの問い合わせに対応していた。

「入力内容に不備があれば、ユーザーに連絡をして差し戻す手間が発生しますし、同じような内容の問い合わせが多く、担当者はその度に繰り返されるオペレーションにかなりの時間を割いていました。また、業務変更に伴うマニュアルの整備が追い付かず、新しい問い合わせにつながってしまうこともありました」と矢島氏。土居氏は、問い合わせが一向に減らない理由をこう分析する。
「マニュアルやFAQは、自分の聞きたいことを探す手間が伴います。そもそも聞きたいことが明確に特定できていないと欲しい回答にたどり着けません。たとえ探せたとしても、難しくて理解できないこともあります。そうなると、結局は問い合わせしたほうが早いという判断になってしまうのです。」

徹底したユーザー目線で操作上のストレスを軽減

ペーパレス・ハンコレスによる場所を選ばない働き方の実現と各部門の生産性向上を図る請求書支払業務、経費精算業務を目指して、同社は、出張・経費管理に特化したクラウドサービス「SAP Concur」を導入。同時に、マニュアルレス・問合せレスに向けた新たなアプローチとしてデジタルアダプションプラットフォーム「WalkMe」の採用を決定した。全ユーザーに対してマニュアルや問い合わせに頼らない操作環境を実現するには、ユーザーがテクノロジーに合わせるのではなく、テクノロジーがユーザーに寄り添う世界が必要との判断である。WalkMeを実際に使用したことのある社員からの勧めでDAPツールの存在を知ったという同社は、検討を進める中で、SAP Concurとの相性がよく使いやすいこと、SAP Concurでの実装実績が豊富であることなどを高く評価した。

SAP Concurへの実装にあたっては、請求書の支払い処理や、経費精算レポートの作成など、ユーザーの使用頻度の高いものから優先的にガイダンスを作成。
「新しいシステムを使用する際に、もっとも使用頻度の高いメインメニューがわかりにくいと、ユーザーにとって一番のストレスになると考えました。次に着手したのが、煩雑でわかりにくい初期設定の画面です。誰もが避けては通れない重要な設定なのですが、使用頻度が極端に低く、手順をマスターできるほど利用機会がありません。初期設定を誤ってしまうとその後の処理に影響が及ぶため、ガイダンスに従うだけで自動的に初期設定が完了するように設計しました。」(土居氏)
「何も操作していないのに勝手に画面遷移していく様子が非常に新鮮でしたね」と矢島氏はその印象を語る。

導入のタイミングがSAP Concurと同時であったことから、そもそもプロジェクトメンバー自身が操作に慣れていなかったことも一役買った。土居氏は、「我々が操作につまずいたところを中心にスマートチップスやランチャーを配置するように心がけました。ユーザーがつまずきやすいポイントを探し出すというよりは、ユーザー目線に立って改善ポイントを特定できたので、構築しやすかったですね」と説明する。

WalkMe Insightによる分析で利用状況から改善を推進

実装したWalkMeのコンテンツについては、WalkMeが提供する分析機能「WalkMe Insight」でその利用率や完了率を分析。たとえば、最もよく利用されているスマートウォークスルーでは、ユーザーの70%以上が目的のプロセスを完遂できていることが明らかになった。土居氏は、「ユーザーが必要とする箇所に的確にWalkMeを実装できており、かつ有効に機能しているということですね」と、ビルダーとしてのやりがいをのぞかせる。反対に、途中離脱の多い箇所が見つかれば、速やかに改善のアクションにつなげることもできる。

また、問い合わせの窓口と連携し、特定の問い合わせが増えてきた場合にはWalkMeでの解決方法を検討。問い合わせの抑制にWalkMeが貢献できる場面も徐々に増えつつある。こうしたユーザー目線での熱心な取り組みがWalkMe社の目に留まり、「2022 WalkMe Builder of the Year」も受賞した。この賞は、コンテンツ構築における改善と自身のスキル向上の努力を積極的に行った個人に贈られるものだ。

一方、最初からSAP ConcurにWalkMeが実装された状態で運用を開始したユーザーは、WalkMeの存在をほとんど意識していない。それでも、旧システムとの大きな違いとして「画面を離れてわざわざマニュアルを探しに行く必要がなく便利」との喜びの声が届いている。実際、SAP Concurの画面上にリンクを貼り、グループ各社で異なる出張規定やマニュアルへの速やかな誘導を図ったことで、操作に関する問い合わせが減少しつつある。
SAP Concurでも注意書きを追加することは可能だが、マウスオーバーしない限り表示されず、リンクを貼ることもできない。SAP Concurで制御しきれない部分をWalkMeが補っている格好だ。

また、在宅勤務の機会が増え、集合研修のように対面での説明の場が設けにくい現状において、WalkMeのような定着化支援ツールへの期待はますます大きくなっている。

真のDXに必要なのは「誰もが使いこなせる」世界

「まだまだWalkMeの使い方を発掘しきれていません。今後はWalkMe Insightを使った分析に力を入れ、問い合わせ件数のさらなる減少につなげていきたいですね。問い合わせに対応している時間を本来業務にまわしていくためにも、ゆくゆくはWalkMeだけで疑問が解決できるようにしたいですし、何よりユーザーがそれを一番望んでいると思います。我々も操作に習熟するにつれ、ユーザーがつまずくポイントがだんだん見えにくくなっていきます。今一度初心に立ち返り、分析結果に基づいて、継続的にユーザー目線での改善に取り組んでいく考えです」(矢島氏)

「マニュアルレス、問い合わせレスで、ユーザーもハッピー、担当部門もハッピーに。そんな世界をWalkMeと共に目指していきます」と矢島氏。WalkMeは、「誰もが使いこなせる」世界の実現によって、ユーザーの業務上のストレスを大きく軽減するとともに生産性を高め、DXの成功に寄与していくことになるだろう。