総合化学メーカーの旭化成は、コロナ禍でのSAP Cuncurの導入にあたり、操作教育を代替えする定着化支援策として、WalkMeを同時に導入。グループ57社への大規模導入でありながら、集合教育が実施できない中でも問い合わせ対応でパンクすることなく、自社開発システムからSaaSへのスムーズな移行を達成した。その後も、WalkMeの力を借りてSaaSの使い勝手を自社のルールに沿うように最適化。「SaaSの自社化」とも呼べるシステム環境を作り出している。

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コロナ禍での制約を受けて 定着化支援のあり方を再考

1922年に創業した旭化成グループは、事業持株会社である旭化成株式会社と7つの事業会社を中核に、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つの領域で事業を展開する総合化学メーカーである。旭化成の技術・製品は、くらしに身近な消費財から、生活をより快適にする素材・製品、いのちを支えるヘルスケア製品まで多岐にわたる。 

同グループでは、「私たち旭化成はデジタルの力で境界を越えてつながり、”すこやかなくらし”と”笑顔のあふれる地球の未来”を共に創ります」という「DX Vision 2030」を策定。デジタル導入期(2018年~)に始まり、全社DX推進を加速するデジタル展開期(2020年~)、DXによる経営革新を実現するデジタル創造期(2022年~)を経て、2024年からはデジタルノーマル期と位置づけ、全従業員がデジタル活用のマインドセットで働くことのできるステージに向けてDXを推進している。

2021年4月にSAP Concur Expense、2023年4月にSAP Concur Invoiceを導入したのも、ニューノーマルに対応し、旅費精算や、経費精算・請求書支払いなどの業務DXを実現するためである。長年使い続けてきた自社開発システムからSaaSへ移行は旭化成にとって大きな変革であり、通常なら、定着化に向けて全国各地の支社にシステム担当者が出向き、導入説明会や操作教育を実施するところだった。

しかし、旭化成にとって初めてとなるSaaS導入のタイミングがコロナ禍と重なり、遠方への移動や集合研修に待ったがかかったのだ。導入対象は旭化成グループ57社、想定ユーザーは3万人と大規模な導入プロジェクトであり、従来のような対面での定着化支援が行えないとなると、安定稼働は絶望的とさえ思える状況だった。そんな中でWalkMeという願ってもない解決策と出会った同社は、SAP Concur Expenseと同時にWalkMeの導入を決めた。

旭化成株式会社 デジタル協創本部 IT統括部 業務推進グループ 上野あゆみ氏

自社ルールに沿って SaaSの使い勝手を最適化

「多くの従業員が、初めて使うSaaSに戸惑うことは容易に想像できましたから、WalkMeの導入は、操作教育を代替えすることに加え、新システムの稼働後に問い合わせが殺到するのを回避することが目的でした」と上野氏。そこで同社は、初めてSAP Concurで経費精算を行う人向けに、経費精算レポートの作成プロセスを最初から最後まで補助してくれる一気通貫ガイドを作成。さらに、よく使うメニューは一覧にして、迷うことなくスムーズにアクセスできる環境を用意した。

上野氏は、自社開発システムとSaaSとの違いに言及し、こう説明する。

「自社開発システムはオーダーメイドで自社のルールに対応できる反面、システム担当からすると、法令対応やソフトウェアの更新などに自社で対応しなければならず、システム運用に関する専門知識を持ち合わせた人員の確保も必要です。一方、SaaSは一般的なルールに対応している分、自社のルールに合わない部分がどうしても出てきてしまいますが、インフラのメンテナンスも不要で、運用の手間がほとんどかかりません。システム担当にとってSaaSはやっぱり便利だなという印象で、今さら自社開発には戻れないというのが本音です。

つまり、問題は、旭化成のルールに合わないという点だけなのです。たとえば、従業員に利用させたくない機能があるとか、当社には必要のない項目が必須項目になっているとか、従業員に説明するのも実行させるのも難しい操作があるといったケースです。しかし、これらはWalkMeですべて解決できることがわかりました。」

同社は、削除機能が利用できないようにするためにボタンを画面の背景色でマスクしたり、自社にとって不要な必須項目には固定の文言を自動入力させたり、難しい操作を簡素化して迷いなく実行できるボタンを作成したり、すべての画面にFAQへのリンクを設定したりなど、WalkMeを実装することでSAP Concurを自社仕様に変更していった。上野氏は、これを「SaaSの自社化」と表現する。

「要らないものは隠せるし、ガイドを追加してわかりやすくすることもできます。SaaS側で当社が望んでいないような機能が追加された場合も、WalkMeで都度対応すればいいわけです。何より、ベースのソフトウェアに手を加える必要がないので、気軽に作って実装でき、うまくいかない場合はより良いものに速やかに変更することもできます。WalkMeさえあれば、まるで自社システムのように変更できてしまいます。SaaSなのにすでに旭化成のシステムになっていると言っても過言ではありません。」

こうして早くもWalkMeが手放せなくなった同社は、2年後のSAP Concur Invoice導入時にも、迷うことなくWalkMeの実装を決めた。

リリース時の混乱を回避し 差し戻し率は半年で半減

上野氏は、定着化におけるWalkMeの貢献を分析し、「既存システムから新しいシステムに移行する際は、ユーザーが操作に慣れるまで生産性が一時的に下がるものですが、WalkMeはわざわざマニュアルやFAQを用意しなくても、従業員が自己解決できる状況を作れるので、目指すべき生産性とのギャップを埋める一助になってくれます」と語る。

実際、SAP Concur ExpenseおよびSAP Concur Invoiceのリリース時には、操作に関する問い合わせが殺到することもなく、レポートの差し戻し率はリリース後半年で40%から15.3%へと劇的に減少。既存システムでは難しかったことが、WalkMeの機能で一つずつ解決できている。

WalkMeが提供する機能の中でも、上野氏が最も高く評価するのがShout Out機能だ。ログイン画面で強制的に表示されるお知らせは、従業員全員に周知したい情報がある場合に重宝しているという。メールやイントラネットではなかなか読まれない情報も、この方法なら確実に目を通してもらうことができ、従業員にも好評だ。また、WalkMeは月次で利用状況を分析できるため、利用が著しく低下している場合は修正を検討するなど、従業員に使い続けてもらうための環境を速やかに用意できることへの満足度も高い。

WalkMeの活用を高度化し より変化に強いSaaSへ

導入当初必要だった機能と、今必要な機能が少しずつ変化してきているため、「現在実装しているWalkMeの機能をいったん整理したい」と語る上野氏は、その理由を「たとえば、手取り足取りのガイドを実装したままでは、新しく何かを実装したときに必要な機能が埋没してしまいかねません。従業員にとって今必要なものへのアクセスを優先するためにも少し整理が必要だと考えています」と説明する。

また、SAP Concur側で予告なしにUIの変更があっても、WalkMeの機能が外れてしまったり、マスクしていた箇所がずれてしまったりといった不具合が発生しないような実装方法を精査していく計画もある。WalkMeをより高度に活用するにつれ、SaaSはますます自社に最適化されていき、同社が目指す「全従業員のデジタル人材化」を大きく後押しすることになりそうだ。

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旭化成株式会社について

事業持株会社である旭化成株式会社と7つの事業会社を中核に、「マテリアル領域」「住宅領域」「ヘルスケア領域」の3つの事業領域で展開。「“Creating for Tomorrow” 昨日まで世界になかったものを。」をグループのスローガンに掲げ、世界の人びとの”いのち”と”くらし”に貢献している。

URL:https://www.asahi-kasei.com/jp/
設立:1922年
資本金:103,389百万円
代表者:代表取締役社長 兼 社長執行役員  
    工藤幸四郎
本社:東京都千代田区有楽町一丁目1番2号 日比谷三井タワー(東京ミッドタウン日比谷)
従業員数:連結49,295人(2024年3月末現在)