IDCは2019年に「2020年までに少なくとも55%の組織がデジタル化を決意し、新たなビジネスモデルやデジタルに対応した製品サービスで市場を変革し、未来を創造する」と予測していました。しかし、2020年に発生したCOVID-19により不確実性が高まり、予期しないさまざまな変化に対応するための組織的な取り組み(チェンジマネジメント、変更管理)の必要性が浮き彫りになりました。McKinseyの調査によると、外部からのショックに備え、対応する準備が整っている組織は約半数で、さらに3分の2の企業は自社が複雑で非効率的であると認識しています。
変化に対する抵抗が強く迅速に適応や進化できない企業は、柔軟性と俊敏力を持って取り組める企業に比べて、イノベーションや適切な成長を実現することができません。McKinseyのDX(デジタルトランスフォメーション)に関する調査によると、経営層、中間管理職、現場の従業員全体で効果的なチェンジマネジメントを実現した企業は、143%のROIを達成しています。
この記事では、企業がビジネス環境の変化に直面する理由、その適切なチェンジマネジメント方法や課題についてご紹介し、戦略的な意思決定で見事効果的なチェンジマネジメントとDXを実現させた4社の事例をご紹介します。
組織が大きな変化に直面する理由
組織が大きな変化に直面するのは多岐に渡る内部的および外部的な要因がありますが、一般的に市場状況、新しいテクノロジーや消費者のニーズに適応するためなどが挙げられます。素早く変化する市場の中で競争力を維持するためには、戦略を進化させることはもちろん、従業員のエンゲージメントや離職率の低下に対応することも重要です。また、外部的な要因としては、法律や規制への対応が挙げられます。これらの大きな変化にまけない組織になるためには、柔軟に対応できる体制が必要不可欠です。
チェンジマネジメントの利点
成長には変化が不可欠です。チェンジマネジメントとは、組織が変革を乗り越え、新たな戦略や技術を導入するための重要なプロセスです。さまざまな利点がありますが、主に以下が挙げられます。
- スムーズな移行
- 従来のやり方から新しい方法への移行をスムーズに進めます。例えば新しいデジタルツールを導入した時も、適切なチェンジマネジメント戦略があれば混乱や不確実性を軽減し、従業員に新しいシステムや業務プロセスの情報提供やトレーニングを行い、ダウンタイムやエラーを減らします。
- 効率向上
- チェンジマネジメントは、既存プロセスにおける非効率性やギャップを特定し、より効率的な新しい業務実行方法にします。
- 従業員のエンゲージメント向上
- 大きな変化を経験する従業員の理解と協力を促進し、エンゲージメントとモチベーションを向上します。
- 競争優位性の確保
- 効果的なチェンジマネジメントを通じて市場のトレンドや規制要件、顧客のニーズに適応することで、競合他社に対する競争優位性を確保します。
- 全体的な成長: チェンジマネジメントによって組織を革新し続けることで、急速に変化する市場の課題に迅速に対応します。
Forbesは企業が変革に直面する主な理由としてコンポーザビリティ、デジタル免疫、持続可能性を挙げています。最新の業界動向や、これらの変化を適切なチェンジマネジメント方法で対処している企業の事例を注視することが重要です。
チェンジマネジメントの課題
チェンジマネジメントは多大な利益をもたらす一方で、課題も伴います。
- 変化への抵抗
- チェンジマネジメントにおける最大の課題の1つは、従業員からの抵抗です。どんな従業員も、現状に慣れており、変化に脅威を感じることがあります。これが反発や協力不足につながり、変化を困難にします。
- コミュニケーション不足
- もう一つの課題は、コミュニケーション不足です。適切なチェンジマネジメントを行うには、そもそもなぜ変化する必要があるのか、その理由をすべての関係者に明確に伝える必要があります。コミュニケーション不足で混乱や誤解が生じるとさらに抵抗を招くことがあるため、徹底が必要です。
- リソース不足
- どんな変革も実施するにはコストがかかります。プロセスの遅延や、急いで変革を進めてしまったことによるエラーや失敗につながる可能性があります。
- 不十分な計画
- チェンジマネジメントをスムーズかつ効率的に進めるためには、効果的な計画が不可欠です。適切な計画がないとプロセスが混乱し、さらなる混乱や抵抗を引き起こします。
- リーダーシップのサポート不足
- チェンジマネジメントの成功は、リーダーシップチームのサポートに大きく依存します。リーダーが変革に対して十分にコミットしていなかったり、関与していなかったりすると、従業員の意欲やモチベーションが低下します。
これらの課題を克服するためには戦略を十分に考慮し、関係者が協力して取り組むことが必要です。
成功したチェンジマネジメントの事例
JPMorgan Chase & Co.
金融大手であるJPMorgan Chase & Co.は、常に変化を受け入れることで、グローバル経済において重要なプレーヤーとしての地位を確立しています。特にパンデミック後の2021年第3四半期には、同社の利益が前年同期の94億ドルから117億ドルへと大幅に増加しました。約27万人の従業員を抱えるJPMorganは、多岐にわたる部門で変革を推進してきた豊富な経験を持っています。最近の例としては、AIとクラウドの迅速な導入が挙げられます。2022年の年次報告書で、会長兼CEOのジェイミー・ダイモン氏は「AIとそれを支えるデータは、当社の将来の成功にとって極めて重要です。新しい技術の導入の重要性は計り知れません」と述べています。
現在、同社では300以上のAI活用ケースが稼働しており、リスク管理、マーケティング、顧客体験、詐欺防止、プロスペクティングなど、さまざまな分野において利用されています。さらに、支払い処理やグローバルな資金移動システムにもAIが導入されています。
JPMorganの社内AIチームは、増加するビジネスケースに対応するため、最先端のソリューションを日々提供しています。1,000人以上の従業員がデータ管理に専念しており、900人以上のデータサイエンティストと600人の機械学習エンジニアが新しいAIや機械学習モデルの開発に取り組んでいます。この体制により、AIや機械学習モデルを実装するためのコードが開発されています。
同社はAIの新たな活用法を探求し、従業員を支援することに力を入れています。さらに、ChatGPTや大規模言語モデルといった、人間中心のコラボレーションツールやワークフローを積極的に活用しています。JPMorganは、グローバルな金融機関としての高い評価に加え、世界経済や市場のパフォーマンスを測る指標としても認識されています。そのため、AIの導入をはじめとしたJPMorganの効果的なチェンジマネジメントの戦略や実践は、業界で注目すべき事例となっています。
Blackwoods
Blackwoodsは、オーストラリアとニュージーランドで最大の産業用・安全製品の提供企業であり、55以上の拠点を持つグローバル2000企業の子会社です。30万点以上の豊富な商品ラインナップを誇り、世界的なブランドから高品質な製品を幅広く提供しています。Blackwoodsは、企業全体での大規模なテクノロジー改革の一環として、Microsoft Dynamicsの導入を計画し、従業員を新しいツールに移行させるために、効果的なチェンジマネジメントを実施する必要がありました。しかし、COVID-19による混乱で在宅勤務が促進され、対面でのトレーニングが難しくなったため、顧客サービスの質に影響が出ました。
この課題を解決するために、Blackwoodsはクラウドおよびデジタルアダプションソリューションの中でも、特にWalkMeのデジタルアダプションプラットフォーム(DAP)を活用しました。チームはWalkMeと協力し、トレーニング資料や自動化などを組み込んだカスタマイズされたチェンジマネジメントソリューションを開発しました。これにより、Microsoft Dynamicsへの移行を含め、社内のさまざまなプロセスを従業員がスムーズに進められるようなり、大きな成果を得ました。新しいチームメンバーの習熟時間は50%短縮され、見積もり作成プロセスは15%短縮、さらに自動化によって毎月数百時間の作業時間が削減されました。
Blackwoodsのセールストレーニングおよびエンゲージメントマネージャーであるダリル・クランブリン氏は、「パンデミックによるロックダウンの開始が、プロセス改善と新しいデジタルアダプションの必要性と重なりました」と述べています。革新的なクラウドソリューションであるDAPを活用することで、従来のトレーニング手法では、混乱に対応して業務を維持するには不十分であることが明らかになりました。
Innovative Employee Solutions (IES)
IESは、グローバルに展開する臨時労働者向けソリューションの提供企業であり、150カ国以上で雇用主代行の給与管理、独立契約者のコンプライアンス、HR管理、バックオフィスサービスを提供しています。カリフォルニアに本社を構えるIESは、2022年のInc. 5000リストにも選ばれ、急成長を遂げている企業として、積極的に変革を取り入れてきました。Forbesは、「人生やビジネスにおいて唯一変わらないものは変化だ。IESは50年間かけてこの教訓を学んできた」と述べています。
COVID-19パンデミックの最中、IESは3年間で驚異的な85%の成長を達成し、競争相手を凌駕するためには、絶え間ない革新と進化が不可欠であることを実感しました。IESは変革への取り組みを強化するために、新たにマリア・ゴイヤー氏を最高イノベーション責任者(CIO)として迎え入れました。CIOを採用したことでさらなる革新を最優先にするという強いコミットメントに繋がりました。
Inc.の編集長であるスコット・オメリアヌク氏は、「近年の経済的な障害を乗り越え、米国で最も急成長している企業になったという成果は、決して過小評価されるべきではありません」と述べ、「Inc.は、イノベーション、努力、そして現代の課題に立ち向かうことで成功している企業を称えることを非常に喜ばしく思います」と続けています。
IKEA (Ingka Group)
IKEAは、手頃な価格の家具やホームデコレーション業界でリーダーとしての地位を確立した世界的ブランドです。常に変化する市場の中で、IKEAが一貫して関連性を保ち、革新を続けているのは、同社の積極的なチェンジマネジメントの成果です。
IKEAは、約80年の歴史の中で初めてバーバラ・マーティン・コッポラ氏を最高デジタル責任者(CDO)として採用し、アナログなビジネスモデルからデジタル成熟度の高い企業へと移行する変革を進めています。GoogleやSamsungなどのグローバル企業での経験を持つコッポラ氏は、4年前にIKEAに加わりデジタル変革を先導してきました。コッポラ氏はIMDのインタビューで「デジタルテクノロジーが、より効率的に組織を運営する方法や、新たな成長の機会を与えてくれるようなデジタルビジネスモデルを提供してくれている今、IKEAはこのデジタルの波に迅速に対応する必要がありました」と述べています。
コッポラ氏は計画を実行に移すためにCEOと連携し、会社の運営にも大きな変革をもたらしました。画一的な手法で進めるのではなく、すべてのデジタル変革がIKEAの価値観と使命に忠実であるように進めるようにしました。スムーズな実行を確保するため、チーム内での人間関係の構築や明確なコミュニケーションの促進に注力し、プロセス全体を通じてステークホルダーを適切に管理し、すべての関係者が情報を得て関与できるようにしました。さらに、チームに意思決定権を与え、自ら変革を推進し結果を出せるようにしました。
さらに消費者にアプリを提供し、製品情報を確認できるようにしたほか、IKEAの商品を簡単に返品できるようなシステムを導入しました。また、顧客が製品を売り戻しリサイクルに活用するプログラムも開始し、2021年のブラックフライデーには10万点以上の商品がIKEAに売り戻されました。コッポラ氏のリーダーシップの下、IKEAのデジタル変革は進化し続けており、チェンジマネジメントの成功例として広く評価されています。
変化を避けずに受け入れる体制を作る
変化は人生においてもビジネスの世界においても唯一の恒常的な要素です。変化を効果的に乗り越える能力を持つことは、成功と失敗の分かれ目にもなります。変化に抵抗するのではなく、それを受け入れることで、組織は成長し、常に変わり続けるビジネス環境に適応することができます。成長志向を持ち、積極的に変革の機会を探求することで、企業は競争力を維持し、イノベーションを続け、業界でのリーダーとしての地位を確固たるものにすることができます。
今回ご紹介した成功事例の4社は、クロスファンクショナルチーム、デジタルアダプション、持続可能性への注力といった戦術を通じて、変化に直面しても柔軟に対応しました。これらの成功の裏にあるのは、効果的なチェンジマネジメントへのコミットメントです。弊社の調査では、チェンジマネジメントを導入した組織の47%が目標を達成する可能性が高く、導入しなかった組織の30%に比べて、成功率が大幅に高いことがわかっています。
これらの企業は新しいテクノロジーを取り入れ、従業員を適切に支援することで、イノベーションの機会を積極的に特定し、それに適応することで市場のリーダーとしての地位を維持することができました。皆様もぜひご参考にしてください。また、このようなチェンジマネジメントについてご興味のある方はぜひお問い合わせください。