購買調達活動は企業が必要とする商品やサービスを確保、購入するためのプロセスであり、企業活動の中で欠かせない業務である一方、非常に複雑な側面を持っています。購買調達チームは、財務やオペレーションといった社内の各部門と密接に連携し、さらに外部サプライヤーとも関係を築く必要があり、関係者全員が共通の目標に向かって協力することが欠かせません。
しかし、Hackett Groupの調査によると購買調達チームの業務負担は昨年だけで10%以上増加しているのに加え、専門人材が不足していることも状況をさらに難しくしています。こうした購買調達の課題は、業務の遅れやコストの増加、さらにはデジタル化を妨げるリスクを引き起こしかねません。この記事では、購買調達活動に大きな影響を及ぼす可能性のある12の課題と、それらの解決のためにテクノロジーがどのように役立つかをご紹介します。
購買調達活動における12の課題
購買調達活動は過去10年で大きく変化しました。デジタルトランスフォーメーションは進んだものの、購買調達チームは多くの課題に直面しています。代表的なものをご紹介しましょう。
- インフレーション
商品やサービスのコストが上昇する中、購買調達チームは収益性を維持するプレッシャーにさらされており、戦略的にインフレーションに対処することが求められています。長期契約で価格を固定する、代替サプライヤーを模索する、数量割引を交渉するなど、戦略的に交渉しコスト上昇を抑えることが重要です。また製造業などにおいては、製品仕様を再検討することも重要です。品質を損なわずに材料を代替する、または仕様を調整することで、コストを削減しながら機能を維持することを目指します。データも強力なツールです。価格動向を追跡し分析することで、節約の機会を特定したり、インフレーションの影響が最も大きいエリアを明確にすることができます。また、サプライヤーとのコラボレーションも欠かせません。サプライヤーと協力してコスト削減の道筋を探り、双方に利益をもたらす解決策を見つけましょう。
- 人材不足
人材不足は購買調達において重大な課題です。専門人材の確保や維持はますます難しくなっており、人手不足により既存のチームメンバーに過度な負担がかかり、エラーのリスクが高まったり能力が損なわれたりしてしまいます。
企業は従業員を育成するためのトレーニングに投資する必要があります。また採用戦略を見直し、多様な人材プールをターゲットにすることで、柔軟な働き方を提供することも重要でしょう。ポジティブで支援が手厚い職場環境は、優秀な人材を引きつけます。さらに、アウトソーシングを活用し必要に応じて専門スキルを補完することで、従業員がより戦略的な活動に集中できるようにすることも有効的です。
- 契約管理
契約管理においては、複雑な条項などによりコストのかかるミスや取引先との関係の悪化を引き起こす可能性もあるため、多くの購買調達チームの課題となっています。
World Commerce and Contractingによれば、契約管理が不十分だと、企業の収益の9%が失われるとも言われており、契約を適切に管理するための明確で一貫性のあるプロセスを整える必要があります。テンプレートやテクノロジーを導入することで、契約更新、修正、重要な日付をトラッキングすることが望ましいでしょう。
- 不正確なデータ
不正確なデータはデータドリブンな意思決定を妨げたり、機会損失、サプライチェーンの混乱を招きます。例えば、在庫データが不正確であれば、在庫切れや過剰支出を招く可能性がありますし、古いサプライヤー情報を使用していると、より良い条件での取引チャンスを逃すことになります。そのため、定期的なデータ監査を実施し、エラーを特定・修正したり、データクレンジングおよびデータ管理ツールへの投資により、プロセスを効率化することが重要です。また、チームに対して、データ入力手順のトレーニングを実施し、データの正確性の重要性を伝えることも欠かせません。
- 社内コミュニケーションの欠如
購買調達は財務、オペレーション、その他の部門との強力なコミュニケーションなしには務まりません。納期の遅延や作業の重複、その他の問題を回避するためにも、主要関係者との定期的な会議や、情報共有のためのコミュニケーション方法の明確化などが求められます。オープンなコミュニケーションで全員が同じ方向を向けるよう、調整が必要です。
- リスク管理
購買調達活動にはリスクが付き物です。Forresterによれば、41%の企業が過去12か月間に3件以上の重大なリスクを経験したと報告しています。サプライチェーンの混乱、価格の変動、規制の変更などが発生すると、綿密に計画された購買調達戦略が崩れることもあります。リスク管理をプロアクティブに行われなければ、予期せぬコストに直面する可能性があるのです。
こうした不確実性に対処するには、堅牢なリスク管理計画が役立ちます。サプライチェーン全体で潜在的な脅威を定期的に評価・特定し、緊急時の対応計画を作成することで、万が一の時にも迅速かつ効果的な対応がとれるようになります。
また、問題を早期に特定するためにオープンなコミュニケーションを促進し、強力なサプライヤー関係を構築したり、潜在的な問題を特定するためのテクノロジーへの投資も重要です。
- デジタルトランスフォメーション
新しいテクノロジーツールの導入に承認を得るのは簡単ではありません。購買調達にとって最適なテクノロジーが必ずしもITが管理しやすいものであるとは限らない上、ITリソースは限られており、購買調達部門が後回しにされることも少なくありません。この壁を乗り越えるには、特定のテクノロジーツールがどのように収益に貢献するかを具体的に示すことが必要です。テクノロジーツールの導入はリスクが伴うように見えますが、急速に変化する市場環境の中で何も行わないコストの方が高くつく可能性があります。直面している課題を迅速に解決し、組織全体にメリットをもたらすソリューションを選択することが重要です。
- サプライヤーとの関係構築
サプライヤーとの関係を強固なものにするには、彼らを単なる取引先ではなく、パートナーと考えることが必要です。CIPSによれば、企業の3分の1以上がサプライヤーのパフォーマンスを把握していないと報告しています。その主な理由は時間不足、トラッキングのためのソフトウェアの欠如、人手不足、あるいは単に評価を忘れてしまうことなどがあがっています。効果的なサプライヤー管理ができると、価格交渉、安定した供給の確保などのメリットがあります。これらを実現するには、情報共有や共同で積極的に問題解決に臨む姿勢などが重要です。透明性と信頼性に基づいた関係を築くことで、長期的に互いに利益をもたらすパートナーシップを形成することができます。また、サプライヤーは豊富な専門知識と独自の視点を持っているため、これにアクセスすることも効果的です。
- コンプライアンスと規制
絶えず変化するコンプライアンスや規制は永遠の悩みの種です。サプライチェーンがグローバル化している今、ますます様々な規制や潜在的な違反に直面するリスクが高まっています。これらの課題に対応するにはチームに必要な知識とツールを提供することが不可欠です。ソフトウェアに組み込まれているコンプライアンス機能を活用するなど、テクノロジーを最大活用したり、複雑なケースでは、法務やコンプライアンス担当と連携することも必要です。
- サステナビリティとCSR
顧客も投資家も、サステナビリティや倫理感(調達元が労働者の権利が守られる安全な労働条件や企業倫理を支援しているかなど)を重要視しています。責任あるサプライチェーンを構築するには、監査を実施し、オープンな対話で契約にサステナビリティに関する項目を組み込んだり、明確な環境および社会責任の期待を設定すると良いでしょう。また、持続不可能な慣行がある場合はサプライヤーと協力し、必要に応じて支援やリソースを提供し、サステナビリティ指標の進捗を関係者と透明性をもって共有することが重要です。
- 非効率的なプロセス
手作業が多かったり、時代遅れのシステムや不要なボトルネックが存在すると、時間の浪費やリソースの無駄に繋がり、エラーが生まれる理由を作り出します。運用の合理化には、既存のプロセスを深く掘り下げて分析することが必要です。反復作業を自動化するためにテクノロジーを導入し、チームが戦略的な取り組みに集中できるようにすることが必要です。また、部門間のコミュニケーションを改善することで協力的な環境を作り、全員が同じ目標に向かって取り組む体制を整えましょう。
- 透明性の欠如
購買調達の意思決定プロセスが不明瞭で、情報が厳しく管理されている環境では、サプライヤーも的確な対応ができません。Center for Strategic and International Studies(CSIS)によれば、購買調達における透明性の欠如は重大な負債となっており、サプライヤーとの関係を損なったり組織の評判を傷つける可能性があります。透明性を実現するには、社内外の利害関係者と情報を積極的に共有したり、購買行動モデルの各ステップに対する明確で標準化されたガイドラインを設定することで、全員が同じ認識を持つことも効果的です。テクノロジーツールを使うのも良いでしょう。リアルタイムのデータに基づいた意思決定を可能にして、オープンにコミュニケーションと協力をすることで透明性が高まります。
テクノロジーで課題を解決
これまで購買調達における主な課題をご紹介しましたが、購買調達のツールを効果的に活用することでこれらの課題を解決することができます。詳しく見ていきましょう。
- 自動化による効率向上
購買調達活動には多くの書類や作業が伴います。依頼承認、発注書(PO)の作成、請求書照合、ルーチンの購入業務を自動化することで、ボトルネックを解消し、エラーも減少させることができます。さらに、単調な作業をツールに任せることで、従業員は強固なサプライヤー関係の構築、革新的な調達ソリューションの探求、リスクの積極的な管理など、より重要性の高い戦略的活動に集中できるようになります。
- データに基づいた意思決定
直感に頼るのではなく、適切なテクノロジーを活用することで、支出パターンの可視化、サプライヤーパフォーマンス指標の比較、コストカットの機会の特定などを行い、データを元にした意思決定に繋げます。
- DXによる効率化
紙ベースのプロセスや分散したシステムは、業務を遅らせエラーを引き起こす要因となります。電子調達(e-procurement)システムは、プロセス全体をオンライン化してこれを効率化します。集中型プラットフォームを使用することで調達から契約管理、発注、支払いまでが一元化されるため、より迅速で透明性の高い体験が可能になります。
- コラボレーションの強化
情報の分断やコミュニケーション不足に悩むことが多い購買調達活動においては、テクノロジーを活用し、購買調達部門内はもちろん、他部門、サプライヤー間のシームレスなコミュニケーションとデータ共有を可能にすることが重要です。
- イノベーション
最適なテクノロジープラットフォームは新しい可能性の扉を開いてくれることもあります。例えば高度な分析、AIを活用したツール、予測モデルを活用することで、先を見越した行動が可能になり、革新的な調達戦略で新しい価値を生み出せる可能性があります。
デジタルアダプションで調達を強化
このようにテクノロジーツールが解決できることもたくさんありますが、これらのツールを適切な形で導入し、定着化させなければその効果は限られてしまいます。デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)は、ツール上でガイダンスを提供し、チームに合わせたトレーニングや継続的なサポートを実現するため、例えば調達部門で新しいソフトウェアが導入されたときも、最大限の効果を引き出すことが可能になります。デジタルアダプションにご興味のある方はぜひお問い合わせください。