JTBグループの傘下で、法人向けソリューション事業を展開するJTBビジネストラベルソリューションズ。BTM(Business Travel Management)事業とITソリューション事業を展開する同社では、経費精算システム「J’sNAVI NEO」をクラウド製品として販売しているが、利用する企業ごとに旅費規程が異なることから、大企業ほど導入前に細かいチューニングを行わなくてはならない。顧客の製品導入と運用に伴うUXの個別要望への対応に柔軟に対応するため、同社はWalkMeを導入した。

業務をシステムに合わせるか、システムに業務を合わせるか

JTBビジネストラベルソリューションズ(以降、JTB-CWT)は、2000年8月の創業以来、2001年1月のCarlson Wagonlit Travel(CWT)との合弁契約締結による同社日本法人の事業統合を経て、延べ3,000社以上の契約企業のビジネス活動とその発展を支えてきました。現在は大きく2つの事業を展開しています。1つは法人向けの出張手配をサポートするBTM(Business Travel Management)事業で、企業ごとに専任チームを設置し、各社の旅費規程を理解した上で、各種予約手配から緊急時の対応まで出張者が良い仕事ができるサポートを提供しています。

JTB-CWTのもう1つの事業の柱がITソリューションです。中でも、総務・経理向けに提供する「J’sNAVI NEO」は出張予約手配と経費精算を一体で提供するクラウド型経費精算システムで、複雑な旅費の精算業務の負担軽減に貢献しています。2022年現在、約600社の導入実績があり、85万人超のユーザーが利用しています。以前はオンプレミス版の製品(旧称:J’sNAVI)として提供していましたが、クラウド版のリリース以降、四半期に1度の機能バージョンアップを実施しており、ユーザーは常に最新機能を利用できるようになりました。

現在のJ’sNAVI NEOは、業務をシステムに合わせる「Fit to Standard」の方針に則して導入する製品に様変わりしています。難しいのは、オンプレミス版から使ってきた顧客がクラウド版にリプレースしようとした時、機能ギャップが発生することです。オンプレミス版では、「日当(出張手当)の金額が役職で相違がある」「海外出張に関する規定がない」といった企業ごとのルールに合わせてカスタマイズをきめ細やかに実施し、顧客の要望に対応してきました。

しかし、システムを業務に合わせていると、経済環境や電子帳簿保存法の改正対応のように、変化に柔軟に適応できないリスクを抱えます。だからと言って、システムを業務に合わせることを完全に否定するわけにはいかない。充実した標準機能の提供に加え、複雑な規程に柔軟に対応できる製品を提供し続けなければならないところに、J’sNAVI NEOの製品チームは難しさを感じていました。

株式会社JTBビジネストラベルソリューションズ IT企画部 IT企画開発課 担当課長 森 慎太郎氏(左) 株式会社JTBビジネストラベルソリューションズ T&Eソリューション部 営業課 相馬 やよい氏(右)

検証スマートチップが顧客の要望にフィット

「全選択のボタンを追加してほしい」など、マーケティングや営業は、日々の活動を通して数多くの顧客の要望や意見を聞く機会があります。しかし、仮にある顧客からの要望をJ’sNAVI NEOの標準機能として新しく実装することが決定しても、進行中の開発計画や開発リソースの制約との兼ね合いで、その顧客の希望する時期に実装できるとは限りません。

この悩みを解決するため、JTB-CWTが導入したのがWalkMeです。自社で利用しているソフトウェアの使いやすさを改善するためにWalkMeを導入する企業が多い中で、JTB-CWTは独自の使い方をしています。プロダクト開発に関わる森慎太郎氏(IT企画部 IT企画開発課 担当課長)が「お客様ごとにWalkMeで開発したシナリオを、J’sNAVI NEOの機能の1つとして提供する仕組み」と説明するように、外販用のプロダクトのUX改善を目的にJTB-CWT はWalkMeを導入することを決めました。

きっかけはある顧客からの「入力内容の制御ができないか」という相談でした。企業の経費精算処理では、後から検索できるように申請番号やプロジェクトコードを紐付けて管理しています。しかし、これらは社内管理を目的としたものであるため、文字種別や桁数などの入力仕様は各社で異なるのが実情です。J’sNAVI NEO側では標準的な入力制御しか提供できないため、連携先の会計システムの仕様によっては、エラーとすべき内容が正常と判定される問題が発生します。ユーザーが気付かないまま処理を終えても、経理のチェックでJ’sNAVI NEOで再入力する必要が生じ、現場の運用に大きな負荷がかかっていました。

森氏がこの問題解決に役立つと着目したのが、WalkMeの「スマートチップ」です。WalkMeでは、入力フィールドの補足情報を表示する「ガイダンススマートチップ」と、入力ミスが発生した場合に修正を促す「検証スマートチップ」の2つの機能を用意しています。検証スマートチップを使えば、ユーザーが誤入力をしても、メッセージで誤りを指摘し、修正するとメッセージを画面から消すことができます。このやり方であれば、J’sNAVI NEO側のコードに手を加えずとも、正確なデータ入力が可能となり、手戻りなどの運用負担を軽減できるようになりました。

数日以内でカスタマイズ機能を提供可能に

J’sNAVI NEOへのWalkMe導入は、顧客とJTB-CWTの両方に良い効果をもたらしました。顧客にとってのメリットは「エンドユーザーの使いやすさの向上」と「エラー発生時の訂正負担の軽減」、JTB-CWTにとってのメリットは「標準で提供している機能の補完が可能」と「改修工数の低減」です。例えば、ある画面で入力フィールドの形式に変更が発生すると、通常はプロダクトの裏側のデータベース設計からの見直しが必要になります。WalkMeを使えば、プロダクトを改修することなく変更を反映できるため、顧客の要望に迅速に応えることが可能です。森氏は「軽いものであれば、数日でリリースまで可能」と話します。

法改正への対応の他、どの企業にも当てはまる入力に関する普遍的な要望へは、これまで通りJ’sNAVI NEO側の開発計画に即して対応する。その一方で、旅費規程の改正など、顧客独自の変更への対応はWalkMeでの実現可能性を検証するよう、プロダクト開発のやり方も変わろうとしています。また、大企業がJ’sNAVI NEOを導入する場合、稼働開始までに1年をかけて設定のカスタマイズをすることも珍しいことではありません。2021年秋に稼働開始した顧客からは、「大規模プロジェクトだったが、WalkMeの利用で稼働時期を守ることができ、その後も安定的稼働していることに満足している」との声を得ています。まだ導入効果を測定する段階ではないため、控えめな声に留まるものの、営業の相馬やよい氏(T&Eソリューション部 営業課)は「プロダクトを使いながら、細かい使い勝手を調整できることは、お客様から高く評価されています」と語ります。

標準ガイダンスの作成やチームとしての対応体制の整備に意欲

大型導入プロジェクトの成功は、J’sNAVI NEOの関係者全員がWalkMeでどこまで個別の要望に対応できるかを学習する機会になりました。今後の目標としては、J’sNAVI NEOに標準的な入力ガイダンスを導入することを検討しています。ガイダンスがあればJ’s NAVI NEOの使い方をセルフサービスで学べるので、顧客の運用負担を減らすことが可能となります。

また、開発メンバーを増やして顧客の要望に迅速に対応する体制を構築する計画を視野に入れています。森氏は、ノーコード・ローコードで設計・構築できるWalkMeエディタの特徴を考慮し、「開発標準を早急に整備し、開発者でなくてもシナリオが作れる仕組みの整備を進めていきたいです」と、意欲を示しています。

顧客の要望全てにWalkMeが対応できるわけではないのですが、営業も顧客への提案段階からWalkMeを使うことを説明するように変わりつつあります」と、相馬氏はWalkMe への期待を語ります。今はJ’sNAVI NEOのオプションとしての紹介ですが、仮にWalkMeを標準で含める提供形態になると、開発体制を充実させることが不可欠です。多くの顧客の期待に応えるためにも、UX改善については裾野を広げ、開発リソースはプロダクトの新機能の開発などに集中していく計画です。

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