グローバルに事業を手掛ける大手電機の日本電気株式会社(以下、NEC)は、企業パーパス「Orchestrating a brighter world:NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を想像し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。」の実現に向け、現在、2025中期経営計画を実行している。この中期経営計画においては、「コーポレートトランスフォーメーション(社内のDX)」「コアDX(お客様のDX)」「フラグシッププロジェクト(社会のDX)」を経営の中核に据え、社内のDXで生み出した価値をお客様へ提供し、そして社会へ貢献していくことを目指している。この起点となる「社内のDX」の推進にあたっては、従業員の持つ力を最大限に発揮し働きがいの向上を図る「働き方のDX」、業務プロセスを最適化しデータドリブン経営を推進する「基幹業務のDX」、IT運用の効率化・高度化を実現する「運用のDX」を3つの柱と、それぞれのDXに共通する、従業員のデジタル体験を高度化する「エクスペリエンス」、様々な社内データを一元化し有効活用する「DATAプラットフォーム」、全システムを効率化・高度化する「モダナイゼーション」の3つで変革を進め、積極的な価値創出を推進しているところだ。
NECがデジタル・アダプション・プラットフォームの導入検討に着手したのも、こうした戦略が背景にあってのことである。そこには、エクスペリエンス向上への取り組みを通じて従業員のデジタル体験を高度化し、業務の効率化や働きやすい環境を実現することで、従業員の能力を最大限に引き出す狙いがある。
「社内にある約1,000のシステムをモダナイズして使いやすくしていくにあたり、エクスペリエンスは非常に重要な要素です。しかし、さまざまなシステムを導入してDXを推進しても、単なるモダナイゼーションやマニュアル作成だけではエクスペリエンスは改善されません」と関氏は強調する。
実際、2018年から2021年にかけて導入したSAP AribaとSalesforceの利用においては、数か月かけて作成したマニュアルが想定通りには活用が進まず、ユーザーからの問い合わせの減少につながらない現状があった。ユーザーにとって、無数にある業務操作パターンを正しく理解することは非常に難易度が高く、「必要な項目がチェックされていない」、「添付ファイルがない」、「ファイルを添付する場所が間違っている」など、申請処理後の差し戻しが多発していた。申請件数の約10%において問い合わせ対応が発生しており、差し戻し率は全体の20%以上にも及んでいたという。このように差し戻しが頻発する状況は、運用担当者にとっても現場のユーザーである従業員にとっても好ましくない状況だったと言える。
もちろん、使い勝手を良くするためにはシステムそのものに手を入れる方法もある。しかし、同社は「Fit to Standard」を基本方針としており、ましてや対象がSaaSとなるとますますカスタマイズは難しい。そこで、マニュアルレスかつトレーニングレスでのシステム利用を可能にすると共に、システムには手を入れず標準機能を活用しながらエクスペリエンスを高められる仕組みを探していた。