グローバルに事業を展開する高機能材料メーカーの日東電工は、間接材調達・購買業務の標準化とガバナンス強化をグローバルで推進するためにSAP Aribaを導入。しかし、もともと独自のルールやプロセスで運用してきた拠点が多く、全社的な統制への道のりには困難が伴うことが予測された。そこで、システムに直接影響を与えることなく入力ルールのコントロールが行えるWalkMeに着目。導入後はヘルプデスクへの問い合わせが3~4割減少。拠点ごとの柔軟な対応と業務統制の両立を可能にしている。

幅広い、多様な製品ゆえの業務運用の共通化、効率化への壁

基幹技術である粘着技術や塗工技術をベースに、エレクトロニクスからライフサイエンスまで、幅広い領域でさまざまな製品を提供しグローバルに事業を展開する高機能材料メーカーの日東電工株式会社(以下、Nitto)は、変化に対応しながら成長を続けるために、グループ独自の戦略を推進している。その柱の一つが、先行者のいないニッチな市場で、Nitto独自の技術を活かしてトップシェアを目指す「グローバルニッチトップTM戦略」、各国・各エリア特有のニーズに応じた新製品を投入してトップシェアを狙う「エリアニッチトップTM戦略」である。

Nittoにしか作れない尖った製品を生み出すという戦略ゆえに、拠点ごとに生産している製品が異なり、拠点毎に運用に違いがでてしまう。結果、間接材の調達・購買に関するルールやプロセスも一つではなく、調達・購買の担当者が国内外に広く散在していることも手伝って、全社的な統制を図りにくい現実があった。

そこでNittoでは、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)への取り組みの一環として、間接材調達・購買業務の標準化とガバナンス強化をグローバルで推進するため、2017年6月から、クラウドベースの調達・購買およびサプライチェーンソリューションであるSAP Aribaの導入を進めてきた。2022年中には導入拠点が日本を含む世界41拠点へと拡大される予定で、登録サプライヤ数は8,000社に上る。また、2021年9月には、業務委託と派遣の調達管理を一元化するため、SAP Fieldglassも導入している。

「新しいシステムを導入したことでこれまで見えなかったものが可視化されると、弱点も見えてきます。特に、オンプレミスで自分たちの業務に合わせてカスタマイズされたシステムからクラウドシステムに移行するとなると融通が利かず、拠点ごとに複雑化していた運用の共通化、効率化はたやすいことではありませんでした。これでは、せっかくのDXがDXになりません。ただシステムを入れるだけでは、人は想定した形では動いてくれません。」(上原氏)

真っ先に問題になったのは、締日が守られないことだった。「締日も、締日の定義もバラバラ。使い方の基準はユーザーの数だけあり、約2000人のユーザーをまとめるのは至難の業であることは容易に想像できました。メールによる通知で注意喚起しても、見ている人と見ていない人がいて全員を網羅できません」と上原氏。また、法規制に対応するために、画面上でいかに正しく入力させるか、正しい選択をさせるかという点でも徹底は難しかったという。もちろん、定着化を促すための操作マニュアルを作成し、社内イントラネット上で公開していたものの、利用されることはほとんどなく、ヘルプデスクへの問い合わせが増える原因にもなっていた。

日東電工株式会社 調達本部 業務管理部長 上原 佳子氏

SAP Aribaのユーザビリティをカスタマイズできる新鮮な体験

「入力データは分析の肝になるのでなんとかしたいという思いがありましたが、SAP Aribaをこういう風に使ってくださいと言葉で伝えるだけでは限界があります」と語る上原氏は、ある項目を隠し、全ユーザーに対して見えないようにしたいと考え、Ariba社に相談したこともあった。ユーザーによる誤入力はその後のワークフローへの影響が大きく、隠すことで誤入力を防ぐ狙いだったが、残念ながら難しいという回答だった。

クラウドシステムではカスタマイズが難しく、たとえカスタマイズできたとしてもアップグレードのスピードに追随できず、不具合の原因になりかねない。拠点ごとの独自ルールを尊重しつつ、クラウドシステム上でユーザビリティをカスタマイズできるようなツールを求めていたところ、同社のIT部門が紹介してくれたのがWalkMeだった。SAP Aribaの導入により一定の成果を上げつつある中で、業務の標準化、ガバナンス強化をさらに一段階前に進めるためのツールとして着目したのだ。

「クラウドシステムでカスタマイズするという選択肢がなくなった時点で、WalkMe以外の選択肢は見当たりませんでした。改善したいと思ったときに自分たちの手ですぐに変更できたり、ユーザーに注意喚起したいメッセージをポップアップ表示したり、入力させたくない項目を簡単に隠せたり、いずれも初めて触れる新鮮な体験でした。」(上原氏)

こうして、まずは日本国内のグループ会社を対象にWalkMeを導入。SAP Aribaへの実装にあたっては、ユーザーにヒアリングを行い、つまずきやすいポイントを洗い出すとともに、操作マニュアルに記載された内容をもう一度精査し、WalkMeのどの機能を使うと効果的か、ユーザーへのメッセージはどう表現すべきかを慎重に検討していった。

問い合わせが3~4割減少 改善アクションも最短で5分に

同社はSAP Aribaに対し、データの入力補助を中心とした機能をWalkMeで実装。単純なステップバイステップのガイダンスだけでなく、選択した項目によってエラーを表示したり、次にチェックすべき項目を促したりなど、条件分岐の設定を活用することで、各拠点が守るべき独自ルールや法規制に対応するためのルールを徹底できるようにした。おかげでWalkMe導入後はヘルプデスクへの問い合わせが3~4割減少。特に期日を守ることにおいて手応えを感じており、たとえば、注目させたいメッセージを画面上にポップアップ表示することで、「締日は今日ですか?」「今日が期限のものはありますか?」といった問い合わせが激減している。

導入後も継続的に改善サイクルを回しているという上原氏は、「ユーザーの声を拾い上げる仕組みを作り上げてはいませんが、導入後に改良した箇所は山ほどあります。WalkMeの分析機能を使えば手作業で拾い上げるまでもなく、どこを改善すべきかは明らかです。たとえば、入力ミスが多いのは、ユーザーにとってわかりにくいからだろうと考えオペレーションを見直します」と説明。

分析の結果を受けてすぐに改善のアクションを起こせるのもWalkMeならではの強みである。早ければ、ものの5分で変更が完了する。
「わざわざユーザーにヒアリングするとなると、聞いたことに対して100%応えないとユーザーは満足しません。しかも、オーバースペックになる可能性もあります。ちょっと変えてみて効果が見られなければ元に戻せばいいという方針で進められるのは、WalkMeが良い循環を保つ重要な役割を果たしてくれるから。WalkMeはシステムにトラブルを引き起こすようなツールではないので、安心してトライ&エラーができます。」(上原氏)

何より、SAP Aribaをカスタマイズしなくても、業務に応じた使い方ができるようになったのは導入の大きな成果と言える。業務に合わせたシステム構築が当たり前のオンプレミスと違って、システムが陳腐化することがないのがクラウドシステムのメリットだが、一方でアップグレードの度に業務が置いていかれてしまうリスクもある。この部分を上手に補完し、進化し続けるシステムに追随するための道具として、同社のWalkMeへの期待は大きい。

カスタマイズリスクを避けつつ柔軟性を味方に業務統制を推進

「WalkMeがなかったら、運用で逃げる方法ばかりを考え、業務統制に妥協していたと思います」と上原氏。独自ルールで稼働する拠点を数多く抱えるNittoにとっては、結果として目標としている姿には到達できず、SAP Aribaが妥協の産物になっていた可能性もある。特に、これまで困りごとをカスタマイズで解決せざるを得なかった小規模な拠点では、WalkMeで解決できることが増え、本社から子会社へ新しいシステムや仕組みを一方的に押し付ける形を回避できている。リスクの高いカスタマイズを避け、WalkMeで代用できるのは、コスト面でも運用面でもメリットが大きい。

こうしたWalkMeの柔軟性はこの先の展開においても強い味方だ。WalkMeでできることと、できないことも把握できてきたという上原氏はこう語る。
「入力ルールを徹底するということは、データの質を上げていくことにもつながります。引き続きWalkMeをどう実装するとベストな解決策へと導けるのかを考えながら、現在SAP Aribaの導入を進めている海外拠点を含めて全社的に完成度を高めていきたいと考えています。」

業務統制の観点では、コンプライアンス強化につながる使い方もさらにブラッシュアップしていくという。標準化というクラウドシステムのメリットでもありデメリットにもなり得る特性を活かしながら、各拠点の業務効率を犠牲にしない柔軟な使い方を実現するWalkMeは、Nittoの調達・購買業務を支えるSAP Aribaの活用価値をより一層高め、日々の企業活動への貢献をグローバルに拡げつつある。

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