基幹技術である粘着技術や塗工技術をベースに、エレクトロニクスからライフサイエンスまで、幅広い領域でさまざまな製品を提供しグローバルに事業を展開する高機能材料メーカーの日東電工株式会社(以下、Nitto)は、変化に対応しながら成長を続けるために、グループ独自の戦略を推進している。その柱の一つが、先行者のいないニッチな市場で、Nitto独自の技術を活かしてトップシェアを目指す「グローバルニッチトップTM戦略」、各国・各エリア特有のニーズに応じた新製品を投入してトップシェアを狙う「エリアニッチトップTM戦略」である。
Nittoにしか作れない尖った製品を生み出すという戦略ゆえに、拠点ごとに生産している製品が異なり、拠点毎に運用に違いがでてしまう。結果、間接材の調達・購買に関するルールやプロセスも一つではなく、調達・購買の担当者が国内外に広く散在していることも手伝って、全社的な統制を図りにくい現実があった。
そこでNittoでは、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)への取り組みの一環として、間接材調達・購買業務の標準化とガバナンス強化をグローバルで推進するため、2017年6月から、クラウドベースの調達・購買およびサプライチェーンソリューションであるSAP Aribaの導入を進めてきた。2022年中には導入拠点が日本を含む世界41拠点へと拡大される予定で、登録サプライヤ数は8,000社に上る。また、2021年9月には、業務委託と派遣の調達管理を一元化するため、SAP Fieldglassも導入している。
「新しいシステムを導入したことでこれまで見えなかったものが可視化されると、弱点も見えてきます。特に、オンプレミスで自分たちの業務に合わせてカスタマイズされたシステムからクラウドシステムに移行するとなると融通が利かず、拠点ごとに複雑化していた運用の共通化、効率化はたやすいことではありませんでした。これでは、せっかくのDXがDXになりません。ただシステムを入れるだけでは、人は想定した形では動いてくれません。」(上原氏)
真っ先に問題になったのは、締日が守られないことだった。「締日も、締日の定義もバラバラ。使い方の基準はユーザーの数だけあり、約2000人のユーザーをまとめるのは至難の業であることは容易に想像できました。メールによる通知で注意喚起しても、見ている人と見ていない人がいて全員を網羅できません」と上原氏。また、法規制に対応するために、画面上でいかに正しく入力させるか、正しい選択をさせるかという点でも徹底は難しかったという。もちろん、定着化を促すための操作マニュアルを作成し、社内イントラネット上で公開していたものの、利用されることはほとんどなく、ヘルプデスクへの問い合わせが増える原因にもなっていた。