ヤマハ音楽教室を全国に展開するヤマハ音楽振興会は、20年以上にわたりヤマハ音楽教室の運営をバックヤードで支えてきた自社開発システムを手離し、パッケージソフトウェアをベースとしたシステムに移行。国内の特約店150店への導入を進めていたが、既存システムとのギャップにユーザーの戸惑いが大きく、早期定着の難しさに直面。WalkMeの機能で100ページを超える運用マニュアルの内容を置き換えユーザーの操作を支援するほか、自習の仕組みやFAQのチャットボット化など、ユーザーの迷いを減らす工夫が光る。

既存環境とのギャップに戸惑い新システムへの移行が難航

ヤマハ音楽振興会は、「幼児・児童・青年及び成人各層のために、豊かな人間性涵養の基盤となる音楽に関する教育活動の基礎的諸問題を探求し、また、その普及を推進して広く社会教育の振興に資するとともに、あわせて我が国及び諸外国における音楽文化の向上に寄与すること」を目的として設立。独自の教育システムを通じてすべての人が持っている音楽性を育む「音楽教育事業」、音楽分野での活躍が期待される方への支援を通して音楽文化の発展に貢献する「音楽支援事業」、音楽の新しい可能性を探求する「音楽研究活動」の3つを柱に事業を推進している。

中でも同財団が運営することで知られるのが「ヤマハ音楽教室」である。1954年の開設以来、独自のメソッドである「ヤマハ音楽教育システム」のもと、60年以上にわたり音楽教育ならびに音楽普及活動を展開。現在、子どもと大人を合わせた教室は国内に約2,400会場、生徒数約30万9千人、講師9,600人を擁し、子どもを対象にしたヤマハ音楽教室からは550万人以上の卒業生を送り出している。

このヤマハ特約店で、顧客情報の登録、レッスン内容の管理、レッスン料の算出と請求、講師への報酬の計算などに使用する「Navi-TONE」というシステムがある。20年以上使い続けてきた自社開発のシステム「Y-TONE」の後継となる、パッケージソフトウェアをベースとしたシステムだ。ある程度想定してはいたものの、自社向けに開発されたシステムからの移行は現場のユーザーにとってあまりにもギャップが大きく、対象となる特約店150店への展開はスタートから思った以上に難航したとして、ヤマハ音楽振興会 経営管理部 情報システムグループ 主務 中村 百子氏はこう説明する。

「パッケージソフトウェアのカスタマイズには限界があります。入力画面ががらっと変わってしまっただけでなく、既存システムを中心に作られた業務フローの変更を余儀なくされました。たとえば、既存システムとマスターデータの持ち方が違うため、以前は1ステップだった操作が数ステップに及ぶとなると、ユーザーはなかなか覚えられません。さらに、音楽教室の運営は特約店に委託しているので、システムの使い方もさまざまで、150店あれば150通りの業務プロセスがあり、マニュアルを作ったところでそのすべてにきめ細かく対応することはできません。結局、特約店様に出向いて直接教育したり説明会を行ったりを繰り返していました。」

一般財団法人ヤマハ音楽振興会 経営管理部 情報システムグループ 主務 中村百子氏

特約店の負荷に配慮した工夫でFAQをチャットボット化

150社への展開をスケジュールどおりに完了するのは難しいと判断したとき、リカバーする方法として真っ先に候補に挙がったのが、WalkMeだった。ヤマハ音楽振興会の協力会社でチャットボットのサポートを担当する山田義貴氏は「WalkMeを初めて見たときに、システム移行のハードルを下げてくれるツールだと直感しました」と振り返る。

「実際にシステムの定着化を図ることの難しさを痛感するなかで、ユーザーの混乱を抑えつつ移行プロジェクトをスムーズに進めるにはWalkMeが力を発揮してくれるに違いないと考えました」と中村氏が語るとおり、迷うことなく導入を決定した。

実装作業は中村氏の指揮のもと、5社14名のメンバーがチーム体制で推進。ひとまずスケジュールを最優先に、紙の運用マニュアルをすべてWalkMe上に実装する方針で進め、その過程でWalkMeの機能理解を深化させつつ、ユーザーに影響の及ばない範囲で細かい調整を行っていった。

同財団によるWalkMeの使い方には、主に3つの特徴がある。いずれもNavi-TONEの早期定着化を目指した独自の工夫が伺える。まず1つ目はシャウトアウト機能の使い方である。ユーザーに注意喚起したい重要な内容をポップアップさせるのが一般的だが、同財団では月ごとに季節の挨拶を表示させ、新しいシステムに愛着を持たせる目的で使っている。このささやかな心配りが意外にも好評だという。

2つ目は、ユーザートレーニングを目的としたオンボーディングタスクの活用だ。一人ひとりのユーザーが自分のペースでシステムの使い方を自習できるようにし、その進捗状況が一目で把握できる。
「ひととおりシステムの使い方を学習した後に質問がある場合は、ヘルプデスクに直接問い合わせできるように導線を整備することで、特約店のキーマンはトレーニングに時間を割く必要がなくなります。フロント業務を担当する従業員にも積極的にNavi-TONEを使ってもらい、ユーザーの裾野を広げて管理の負荷を分散させる狙いもあります。」(中村氏)

3つ目は、アクションボットの活用である。複雑なフォームへの入力作業を簡素化する目的で使われることが多いこの機能を、同振興会ではヘルプデスクへの増え続ける問い合わせを防ぐ目的でFAQに適用している。コールセンター側に蓄積された問い合わせデータを吸い出してアクションボットに実装し、ユーザーはカテゴリー検索またはキーワード検索で回答を引き出せる仕組みだ。
「WalkMeのインサイト機能を使ってユーザーが検索したキーワードやヒット率などを毎週分析し、新たにFAQを作成したり、特定のキーワードを既存のFAQに紐づけたり、必要に応じてFAQをブラッシュアップしています。」(協力会社 チャットボット担当 目取真 裕希氏)

心理的ハードルを下げつつマニュアルなしでも操作可能に

まだ残る特約店への導入作業が続いているため、導入前との比較でWalkMeの効果を正確に評価できる状況にはないものの、「ユーザーに運用マニュアルをポンと渡すだけでなく、画面上でも操作ガイドを用意していることを伝えると、一様に好意的な反応が返ってきます。いざというときに助けになるツールとして受け入れられている印象ですね。また、画面の色合いや見た目のやさしさなど、ユーザーに寄り添うデザインに変えることで、新しいシステムに対する心理的な抵抗感を弱める効果も感じています」と中村氏。

協力会社でシステム全般の構築を担当する森若 卓也氏も、定着化を図る上でのメリットをこう説明する。
「運用マニュアルは100ページを超え、印刷するとかなりの厚さになります。これまでは手元に置いて参照しながら操作する方もいましたが、運用マニュアルに記載されている内容をWalkMeのスマートウォークスルーやスマートチップスなどの機能を使って表現することで、いちいちマニュアルを見なくても操作できるようになります。また、通常は各特約店への導入が進むにつれ問い合わせ件数も増えていくものですが、WalkMeの機能を駆使してFAQをチャットボット化することで、ユーザーによる自己解決を促す手助けになっています。」

さらにもう一つ、WalkMeの実装を機にある変化をもたらしたのが、インサイト機能である。毎週の定例会でFAQの検索キーワードを分析するようになり、現場の困りごとを肌感ではなく、実績値として把握し、関係者間で共有できるようになったことだ。エビデンスを得て、必要なアクションを検討しやすくなったメリットは大きい。

ユーザーに愛されるシステムへ定着化の次の課題は効率化

同財団では、2023年2月を目途に、残る特約店への移行作業を行っている。目標店数の導入まで、あと20店程度だ。豊富なWalkMeの機能を使って何がどこまでできるのかはまだまだ手探りだが、「せっかく導入したので、これから使い倒していきたい」と中村氏。可能性の拡がりに期待が高まっている。

まずは全特約店への導入が完了するのを待って、WalkMeのサーベイ機能を使ったユーザー満足度調査を実施したい考えだ。そのさらに先には、「入力値の自動実行や画面の自動遷移など、動きのある機能の実装にもトライしてみたいですね」と正木 秀明氏(協力会社 システム全般構築担当)。山田氏も、「Navi-TONEとのデータ連携を踏まえた使い方を実現できれば、Navi-TONEがユーザーにとってさらに使い勝手のよいシステムになっていくのではないかと思います」と付け加える。定着化から効率化へ、Navi-TONEがユーザーに愛され、その価値を最大限に発揮できるように、そこに寄り添うWalkMeの使い方を進化させていく。